14.チェビシェフの多項式について

今回も前回のド・モアブルの定理に引き続き,「コサインのn倍角の公式の導出」に関する内容で,
難関大頻出テーマの一つであるチェビシェフの多項式について解説します.
1996年京都大・後期の背景でもあるわけですが,これについても関連する入試問題も含め解説したいと思います.

本題に入る前に,まずはフツウにcos(nθ)の公式をn=0〜5まで求めてみます.

●cos0 = 1
●cos1θ = cosθ
●cos2θ = cos(θ+θ)
=cosθcosθ - sinθsinθ
=cos^2θ - (1-cos^2θ)
=2cos^2θ - 1
●cos3θ = cos(2θ+θ)
=cos2θcosθ - sin2θsinθ
=(2cos^2θ-1)cosθ - 2cosθsin^2θ
=(2cos^2θ-1)cosθ - 2cosθ(1-cos^2θ)
=4cos^3θ - 3cosθ
●cos4θ = 2cos^2(2θ) - 1
=(2cos^2θ - cosθ)^2 - 1
=8cos^4θ - 8cos^2θ + 1
●cos5θ = cos(3θ+2θ)
=cos3θcos2θ - sin3θsin2θ
=(4cos^3θ - 3cosθ)(2cos^2θ - 1) - (3sinθ - 4sin^3θ)*2sinθcosθ
=8cos^5θ - 10cos^3θ + 3cosθ - 6cosθ(1-cos^2θ) + 8cosθ(1-cos^2θ)^2
=8cos^5θ - 10cos^3θ + 3cosθ - 6cosθ + 6cos^3θ + 8cosθ - 16cos^3θ + 8cos^5θ
=16cos^5θ - 20cos^3θ + 5cosθ

 …

このように,加法定理を用いて次々に求まっていきますね.
n=6〜も同様にして求めればいいわけですが,これ以上は計算量が膨大になるので,この辺りで止めておくとしましょう.
さて,ここで着目すべきは右辺の方で,cos(nθ)はcosθのn次の多項式となっていますね(n=6〜も,おそらくそうなると予想はできます).
しかも,右辺を眺めると何か一定の法則性があるように見えませんか.

では,チェビシェフの多項式について具体的に解説していくとしましょう.
まずはその定義からです.

【チェビシェフの多項式】
nを0以上の任意の整数として,
xの多項式 Tn(x) を T0(x) = 1, T1(x) = x, Tn+2(x) = 2xTn+1(x) - Tn(x) と定義するとき,
cos(nθ) = Tn(cosθ) が成り立つ.

これは,まさにコサインのn倍角の公式 cos(nθ)がcosθのn次の多項式で表せるということを意味しています.
まずは,証明からやってみます.

[証明]
n=0のとき,T0(cosθ) = cos0 = 1 なので成り立ちます.
n=1のとき,T1(cosθ) = cos1θ = x なので成り立ちます.
つぎに, n=k, n=k+1 のときの成立を仮定して, n=k+2 での成立を示します.
Tn+2(cosθ) = 2cosθTn+1(cosθ) - Tn(cosθ)
=2cosθcos(k+1)θ - coskθ
=2*(1/2){cos(θ+(k+1)θ) + cos(θ-(k+1)θ) - coskθ
=cos(k+2)θ + cos(-kθ) - coskθ
=cos(k+2)θ
∴n=k+2のときも成り立つので,0以上の任意の整数nで成り立つことが示されました.


このようなxの多項式Tn(x)をチェビシェフの多項式といいます.
それでは上記の3項間漸化式を用いて,Tn(x)をn=0〜5まで計算してみます.

●T0(x) = 1
●T1(x) = x
●T2(x) = 2xT1(x) - T0(x)
=2x^2 - 1
●T3(x) = 2xT2(x) - T1(x)
=2x(2x^2-1) - x
=4x^3 - 3x
●T4(x) = 2xT3(x) - T2(x)
=2x(4x^3-3x) - (2x^2-1)
=8x^4 - 8x^2 + 1
●T5(x) = 2xT4(x) - T3(x)
=2x(8x^4-8x^2+1) - (4x^3-3x)
=16x^5 - 20x^3 + 5x

 …

これらxの多項式で,xとcosθを入れ換えると,はじめに計算したcos(nθ)の公式になっていることが見て取れますね.

T0(x) = 1 ⇔ cos0 = 1
T1(x) = x ⇔ cos1θ = cosθ
T2(x) = 2x^2 - 1 ⇔ cos2θ = 2cos^2θ - 1
T3(x) = 4x^3 - 3x ⇔ cos3θ = 4cos^3θ - 3cosθ
T4(x) = 8x^4 - 8x^2 + 1 ⇔ cos4θ = 8cos^4θ - 8cos^2θ + 1
T5(x) = 16x^5 - 20x^3 + 5x ⇔ cos5θ = 16cos^5θ - 20cos^3θ + 5cosθ

では,チェビシェフの多項式を背景に持つ入試問題をいくつか解説していきます.

[問題]
(1) cos5θ = f(cosθ)を満たす多項式f(x)を求めよ.
(2) cos(π/10)cos(3π/10)cos(7π/10)cos(9π/10) = 5/16を示せ. (1996年 京都大・後期)

[解説]
(1) cosθをxとして,cos5θをxの多項式で表せということで,まさにチェビシェフの多項式そのものですが,
ここでは加法定理から求めておくとしましょう.
cos5θ = cos(3θ+2θ)
=cos3θcos2θ - sin3θsin2θ
=(4cos^3θ - 3cosθ)(2cos^2θ - 1) - (3sinθ - 4sin^3θ)*2sinθcosθ
=8cos^5θ - 10cos^3θ + 3cosθ - 6cosθ(1-cos^2θ) + 8cosθ(1-cos^2θ)^2
=8cos^5θ - 10cos^3θ + 3cosθ - 6cosθ + 6cos^3θ + 8cosθ - 16cos^3θ + 8cos^5θ
=16cos^5θ - 20cos^3θ + 5cosθ
∴f(x) = cos5θ = 16x^5 - 20x^3 + 5x = x(16x^4 - 20x^2 + 5)

(2) 前問をうまく利用できるかがカギです.
まず,θ=π/10, 3π/10, 7π/10, 9π/10 はいずれも,cos5θ=0となることがわかります.
言い換えれば,cos(π/10), cos(3π/10), cos(7π/10), cos(9π/10) は,f(x)=0の解ということですが,
いずれも0ではないので,(1)から,16x^4 - 20x^2 + 5 = 0 の解であり,
16x^4 - 20x^2 + 5 = 16(x - cos(π/10))(x - cos(3π/10))(x - cos(7π/10))(x - cos(9π/10))
が成り立ちます.
あとは,両辺の定数項を評価して
5 = 16cos(π/10)cos(3π/10)cos(7π/10)cos(9π/10)
⇔cos(π/10)cos(3π/10)cos(7π/10)cos(9π/10) = 5/16
と題意が示されます.

方程式 16x^4 - 20x^2 + 5 = 0 を解いて,実際にcos(π/10)とcos(3π/10)の値を求めて与式に代入するという方法もありますが,
本問ではその計算は不要ですね.


[問題]
cos(2π/7) + cos(4π/7) + cos(6π/7) =a, cos(2π/7)cos(4π/7)cos(6π/7) = b
とする.aとbの値を求めたい.以下の設問(1),(2),(3)に答えよ.
(1) 角θ(ラジアン)が
 cos3θ = cos4θ …@
 を満たすとき,解のひとつが cosθ であるような4次の方程式を求めよ.
(2) θ=2π/7のとき, cosθ が解のひとつであるような3次の方程式を求めよ.
(3) 設問(2)の結果を用いて, aおよびbの値を求めよ. (2008年 東京慈恵会医科大・医)

[解説]
(3)を解くだけなら,原点を中心とする単位円に内接する正七角形(x軸対称)を描いてベクトルで解く方法や,
複素数平面上にz^7=1の解(単位円に内接する正七角形の頂点で実軸対称)をとって1のn乗根の性質から解く方法などの早業もありますが,
今回は問題の流れがあるのでフツウにやってみます(むしろそれが大切).

(1) これは問題ないですね.cos3θとcos4θをcosθの多項式で表して,与式に代入するだけです.
やはり,加法定理を用います. 
cos3θ = cos(2θ+θ)
=cos2θcosθ - sin2θsinθ
=(2cos^2θ-1)cosθ - 2cosθsin^2θ
=(2cos^2θ-1)cosθ - 2cosθ(1-cos^2θ)
=4cos^3θ - 3cosθ …(☆)
cos4θ = 2cos^2(2θ) - 1
=(2cos^2θ - cosθ)^2 - 1
=8cos^4θ - 8cos^2θ + 1 …(★)
(☆),(★)を@に代入します.
cos3θ = cos4θ …@
⇔ 4cos^3θ - 3cosθ = 8cos^4θ - 8cos^2θ + 1
⇔ 8cos^4θ - 4cos^3θ - 8cos^2θ + 3cosθ + 1 = 0
このようにしてcosθの4次の多項式ができるので,あとはcosθとxを入れ換えて,題意の方程式が作れます.
∴8x^4 - 4x^3 - 8x^2 + 3x + 1 = 0

(2) 問題の流れからいくと,cos(2π/7)が(1)で作った4次方程式の解であろうと見当は付きますが,それをキチンと示します.
そのためには,θ=2π/7が@を満たすことを示せばいいわけです.
θ=2π/7 ⇔ 7θ=2π ⇔ 3θ+4θ=2π ⇔ 3θ=2π-4θ
∴θ=2π/7のとき,cos3θ = cos(2π-4θ) = cos4θ
これでθ=2π/7が@を満たすことを示せました.
言い換えれば,cos(2π/7)は(1)で作った4次方程式の解の一つであるということです.
ここで,求めるべきはcos(2π/7)が解の一つである3次方程式なので,(1)で作った4次方程式を因数分解して,
1次式と3次式の積の形にしたとき,1次式の方の解でないことを示せば,3次式の方の解ということになり,
題意の3次方程式が求まります.
8x^4 - 4x^3 - 8x^2 + 3x + 1 = 0 において,x=1が解の一つであることから,因数定理より
(x - 1)(8x^3 + 4x^2 - 4x - 1 ) = 0
と因数分解できます.
ところが,cos(2π/7)≠1なので,cos(2π/7)は 8x^3 + 4x^2 - 4x - 1 = 0 の解であり,
これが求めるべき3次方程式になります.
∴8x^3 + 4x^2 - 4x - 1 = 0

(3) ここまで来れば,もう先は見えますね.
同様の操作によりcos(4π/7)とcos(6π/7)も@を満たすので,さらにcos(4π/7),cos(6π/7)≠1であり,
cos(2π/7)>cos(4π/7)>cos(6π/7)であることも考慮して,
これらは(2)で求めた3次方程式の相異なる3つの実数解となることがわかりますね.
ということは,8x^3 + 4x^2 - 4x - 1 = 0 において,解と係数の関係から
a = cos(2π/7) + cos(4π/7) + cos(6π/7) = -1/2
b = cos(2π/7)cos(4π/7)cos(6π/7) = 1/8
と求めればいいですね.

とりわけ,このタイプの類題が頻出で過去にあらゆる大学がこぞって出題しており,
比較的近年だと2007年の慶応大・理工に全く等価の出題がありました.
東大・京大をはじめとする難関大受験生にとっては,これからも要注意の一題と言えます.

[問題]
xの多項式 fn(x) (n=0,1,…)を f0(x) = 1, f1(x) = x,
fn+1(x) = 2xfn+1(x) - fn-1(x) (n=1,2,…) により順に定める.
(1) f5(x) を具体的に求めると f5(x) =[ (あ) ]であり,方程式 f5(x) = 0 を解くと x =[ (い) ]である.
(2) n=1,2,…に対して, fn(cosθ) = cos(nθ) であることを示しなさい.
(3) (1)と(2)を用いて cos(π/10) の値を求めると[ (う) ]である.
(4) nを3以上の奇数とする.関数 y = fn(x) (-1<x<1) は極大値[ (え) ]をとる.
 この極大値をとる x の値すべてを n を用いた式で表すと x =[ (お) ]である. (2008年 慶応大・医)

[解説]
この問題は背景どころか,言っていること自体がそのままチェビシェフの多項式です.

(1) まずは定義に従って,f5(x)まで順に計算していく単なる計算問題です.
●f0(x) = 1
●f1(x) = x
●f2(x) = 2xf1(x) - f0(x)
=2x^2 - 1
●f3(x) = 2xf2(x) - f1(x)
=2x(2x^2-1) - x
=4x^3 - 3x
●f4(x) = 2xf3(x) - f2(x)
=2x(4x^3-3x) - (2x^2-1)
=8x^4 - 8x^2 + 1
●f5(x) = 2xf4(x) - f3(x)
=2x(8x^4-8x^2+1) - (4x^3-3x)
=16x^5 - 20x^3 + 5x …(あ)
つぎに,f5(x) = 0 ⇔ 16x^5 - 20x^3 + 5x = 0 ⇔ x(16x^4 - 20x^2 + 5) = 0
この方程式を解いて,x = 0, ±{√(10±2√5)}/4 …(い)

(2) これも帰納法を用いて簡単に示せます.
n=0のとき,f0(cosθ) = cos0 = 1 なので成り立ちます.
n=1のとき,f1(cosθ) = cos1θ = x なので成り立ちます.
つぎに, n=k-1, n=k のときの成立を仮定して, n=k+1 での成立を示します.
fk+1(cosθ) = 2cosθfk(cosθ) - fk-1(cosθ)
=2cosθcoskθ - cos(k-1)θ
=2*(1/2){cos(θ+ kθ) + cos(θ- kθ) - cos(k-1)θ
=cos(k+1)θ + cos(1-k)θ - cos(k-1)θ
=cos(k+1)θ
∴n=k+1のときも成り立つので,任意の自然数nで成り立つことが示されました.

(3) 前問の結果を用いて,cos(π/10)の値を実際に求めよということですが,ここからがこの類の問題独特の解法の流れです.
(1)でf5(x)=0の解を求めさせていますから,cos(π/10)がその一つの解であることは見当が付きます.
まず,そのことを示します.(2)で証明したfn(cosθ)=cos(nθ)が成り立つことから
f5(cosθ)=cos(5θ)が成り立ちますが,
θ=π/10のとき,f5(cos(π/10))=cos(π/2)=0となるので,cos(π/10)はf5(x)=0の解であることがわかります.
あとは簡単です.
cos(π/10)>0なので,cos(π/10)の値は{√(10±2√5)}/4のどちらかなわけですが,
0<π/10<π/4 ⇔ 1>cos(π/10)>1/√2 ⇔ 1>cos^2(π/10)>1/2
[{√(10+2√5)}/4]^2 = (10+2√5)/16>1/2
[{√(10-2√5)}/4]^2 = (10-2√5)/16<1/2 から
cos(π/10) = {√(10+2√5)}/4 …(う)
とわかりますね.

(4) 微分するまでもないでしょう.
x=cosθとすると,-1<x<1から0<θ<πとすれば便宜であり,
このとき,y=fn(cosθ)=cos(nθ)≦1 (∵nは3以上の奇数) なので,y=fn(x)は極大値1 …(え)
をとることは明らかです.最大値が極大値となるからです.
よくわからないという方は,例えばT3(x)=4x^3-3x (-1<x<1) のグラフを描いてみればわかります.

また,cos(nθ)=1のとき,nθ=2kπ ⇔ θ=2kπ/n (k:整数)
∴x=cos(2kπ/n) (k=1,2,…,(n-1)/2) …(お)


ここまで読まれた方,お疲れさまでした.
チェビシェフの多項式は奥が深く,さらにいろいろな性質がありますが,大学入試で出題されるのはせいぜいこの辺りまででしょう.

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